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第一章 断罪の舞踏会

Penulis: Miyuki
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-28 20:45:55

「レティシア・ヴァルフォード。今日この場で、お前との婚約を解消する!」

ユリウス王太子の声が、これでもかというくらい豪華な会場に響き渡った。シャンデリアの光がキラキラと輝いて、まるで私を裁くための光みたいだ。貴族たちはヒソヒソとささやき始め、扇や手袋で口元を隠しながら私を指さしている。バカにして、面白がって、軽蔑している人……みんなが私を見ている。

やっぱり、こうなったか…

意外なくらい、頭は冷静でいた。怖がっているわけでも、取り乱しているわけでもなくて、前にも何度も見てきた “バッドエンドを迎える悪役令嬢” の姿を、ただ受け入れているだけだった。

「レティシア様は、エミリア様をハメました!こちらの手紙が証拠です!」

取り巻きの一人が、わざとらしくヒラヒラと“偽造した手紙”を掲げる。もちろん、全部エミリア側が用意したデタラメだ。

「王太子妃にふさわしくない振る舞いです!」

「聖女候補を害するなど、重罪です!」

――出た。台本通りの断罪。

またこの流れ。何度目かなんて、もう数えたくもない“お決まりのパターン”。

取り巻きの声が、ナイフみたいに胸に突き刺さる。

エミリア・ローゼンは、今にも泣き出しそうに俯いていた。

その肩はわざとらしいほど小さく震え、涙は落ちる寸前でぴたりと止まっている。

完璧な「庇護される聖女」の演技。

けれど、その瞳だけはかすかに笑っていた。

表向きは「純真な聖女候補」。

でも実際は、王家にとって都合のいい存在。

そして私は――操れない、邪魔な女。だから切り捨てられる。

(やっぱりね……)

前の私は、運命に任せてやられっぱなしだった。

でも今は違う。生き残る。自由になる。

それだけを考えていればいい。

私は大きく息を吸い、ゆっくりと会場の中央へ歩み出た。

さっきまで騒がしかった貴族たちも静まり返り、視線が一斉に私へ向けられる。

「異議あり、ですわ」

王太子は顔を赤くして怒っている。声は低く、落ち着いた調子でありながら、はっきりと響いた。シーンって感じだった。王太子ユリウス殿下は、わずかに眉をひそめて私を見下ろした。

「……なんだと?」

その瞬間、会場の空気がぴたりと止まった。周囲の取り巻きたちも、扇を握る手を止め、互いに視線を交わしている。

(まさか言い返すとは …… どうするのですか、殿下)

「私に罪があるとおっしゃるのなら、正式な裁判をお願いしますわ。

ユリウス殿下は歯噛みし、吐き捨てるように言い放った。

「……裁判も何も、お前の行いは明白だ! エミリアを陥れた罪からは逃れられない!」

すかさず、エミリアが震える声で割って入る。

「や、やめてください……殿下……。私は……レティシア様を責めたいわけじゃ……」

一見か弱いが、明らかに計算された声色。その裏で、王太子の袖をそっと掴み、庇護される姿を演出している。

「ですが……聖女候補として、国に選ばれた身として……こんな騒ぎは……」

“聖女”という肩書を巧みに使い、世論を誘導する完璧なヒロインの顔。俯き、涙は落ちる寸前で止めている。

王太子はそんな彼女を見て、さらに怒りにを燃える。

「エミリアにこんな思いをさせておいて……! レティシア、お前の罪は重い!」

貴族たちはどよめき、空気が悪役処刑の流れへ傾いていく。

――それを、私は切り裂いた。

(ここで黙っていたら終わり。婚約破棄なんてまだ序章で、“王家への反逆”をでっち上げられて処刑――それがいつものバッドエンド。)

私は会場の隅に立つ黒衣の男性へ視線を向けた。全身黒ずくめで、金色の瞳が冷たく光っている。

黒鷲公爵アレクシス・フォン・グラナート。この国で誰も逆らえない人物。

軍の半分がグラナート家。財政も領地開発も、公爵家なしでは国が回らない。王家“より”国を支えている、本物の権力者。王太子ですら、彼の前では無力だ。

彼が一度「守る」と言えば、王太子の命令すら上書きされる。

だからこそ、私の命を救えるのは公爵だけ。

私は立ち止まり、彼に向き直った。

「公爵様、私と……契約結婚してくれませんか?」

会場が再び静まり返る。

王太子は顔を真っ赤にして震え、言葉を失っている。

エミリアも目を見開き、顔が引きつっていた。

その隣で取り巻きの貴族が青ざめ、小さく悲鳴を上げる。

アレクシスは、ほんのわずかに口元をゆるめて私を見た。そして低い声で言う。

「悪役令嬢様。その“契約結婚”、内容を聞こうか。」

金色の瞳が、逃がさない獣のように私を射抜く。私は深く息を吸い、視線を返した。

「単刀直入に申し上げますわ、公爵様。私は生き残りたい。そのためにあなたの庇護が必要です。」

アレクシスはわずかに笑う。

「見返りは?」

「私を使ってください。」

「ほう。」

「社交界でも、王宮でも、どこでも。“あなたの妻”という立場を、あなたの政治に使えるように働きますわ。情報も、人脈も、敵対派閥の弱点も……これまで王太子妃として仕込まれたものが、全部役に立ちます。」

アレクシスが少しだけ眉を上げた。

「王太子妃教育を“俺のために使う”か。悪役令嬢らしい提案だ。」

私はかすかに笑う。

「ええ。もう王家の飾りになるつもりはありませんもの。」

王太子ユリウスが叫ぶ。

「待て! レティシア、お前は俺と――!」

アレクシスは片手を軽く上げた。

その瞬間、王太子は喉をつまらせたように黙り込む。声が出ない。

会場中が震えあがる。

「……続けろ。」とアレクシス。

私はうなずき、堂々と言った。

「公爵様、あなたも“妻”が必要でしょう?」

「理由を聞こう。」

「この国の半分はあなたの力で動いている。残り半分――王家の側にも、“あなたに刃向かう言い訳”が必要でしょう?そのためには、“公爵夫人”という表の顔が有効ですわ。」

アレクシスの瞳が細められる。

「つまり君は、“俺を利用する”と言うわけだ。」

「ええ。どうか“私もあなたを利用させて”。Win-Winの関係ですわ、公爵様。」

一瞬の静寂。遠くで誰かが息を呑む音がする。

アレクシスはゆるく笑う。

「気に入った。」

「……!」

アレクシスは私を覗き込むように身を寄せ、囁いた。

「ただし、条件がある。」

私は息をのみ、頷いた。

「俺を出し抜くな。契約結婚とはいえ、俺を裏切れば、王家より先に俺が君を追い詰める。」

背筋に冷気が走る。

けれど、私は微笑んだ。

「ええ。その“真っ直ぐな脅し”、嫌いじゃありませんわ。」

アレクシスがくつくつと笑う。

「……面白い。すべてを失う前に、俺を選ぶとはな。いいだろう、悪役令嬢。君を妻として迎えてやろう」

王太子の悲鳴にも似た叫びが響いたが――

私はもう振り返らなかった。

バッドエンドの脚本は、今この瞬間――完全に書き換わったのだから。

そして私は、これからどう生き残るかを考え始めた。

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